解説:
強烈な通俗性の中に、豊潤な映像美学を開花させ、一つの大都市をこれだけ魅力的に捉えた作品は他にない。この映画の主役は間違いなくローマそのものだ。無 論、M・マストロヤンニという最適の語り部を用意してはいるが。作家志望の夢破れて、今はしがないゴシップ記者のマルチェロは豪華なナイトクラブで富豪の 娘マッダレーナ(A・エーメ)と出会い、安ホテルで一夜を明かす。ハリウッドのグラマー女優(A・エクバーグ)を取材すれば、野外で狂騒し、トレビの泉で 戯れる。乱痴気と頽廃に支配された街ローマ。同棲中のエンマは彼の言動を嘆く。二人で訪れた友人スタイナー一家の知的で落ち着いた暮らしぶりを羨むマル チェロだが、彼らも子連れの無理心中で突如死に、残るは絶望の実感のみ。いよいよ狂乱の生活に没入するマルチェロは海に近い別荘で仲間と淫らに遊び耽る。 彼らが享楽に疲れ果てた体を海風にさらす朝、マルチェロは波打ち際に打ち上げられた怪魚の、悪臭を放って腐り果てるさまを凝視した。彼方で顔見知りの可憐 な少女ヴァレリアが声をかけるが、波音に消されて聞こえない。かくて純粋な青春の時は終わったのか……。素晴らしいラストシーンを持った、フェリーニにし か描けない都市のデカダンスが弾ける。N・ロータの音楽も多様な変奏を聴かせ、映画と完全に溶け合って見事。
|