解説:
「ライムライト」以降、赤狩りのアメリカを嫌い、母国イギリスへと帰ったチャップリンが五年の沈黙を破って発表した、痛烈なアメリカへの諷刺に充ち、だからこそ、溢れる第二の祖国への郷愁を感じさせずにはおかない、骨太のコメディだ。最後の主演作で、これまで放浪紳士を演じ続けた(たまに“独裁者”に浮気もしたが)彼が、小国とは謂えども、王様を演じるのも、時代の皮肉。さて、ヨーロッパの某小国に社会主義政変が起こり追放に近い形でアメリカへ亡命した王様。自由を求めてやって来たその地は、醜悪な商業主義に侵され(この際、ロックンロールに対する無理解は許そう)、狂ったマッカーシズムの席巻する、自国以上に居心地の悪い場所だった……。資本論を引用するこまっしゃくれた坊やと論争したり、その笑いはいささか高級な部類に属するのだが、もちろん、チャップリンならではのストレートな笑いもある。傑作なのは、若返りに整形手術を受けた王様が、術後にうっかり笑って、その顔がぐにゃっと歪んでしまう場面。これを特殊メイクなどではなく、“顔技”でみせる老喜劇王の素晴らしさ……。ニューヨークに実際に行かずに(不法出国をした彼が再び入国を許されるのは、それから何年も後だ)作られた(ハリウッド映画でも往々にしてそうだが)ニューヨークも、また見ものである。
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