解説:
己自身、闘牛士だったこともあるB・ベティカーが原案から手がけた、メキシコを舞台にした闘牛士の物語。初老のマタドール、サントス(クイン)はスペインからこの地に移住し、国民的英雄として闘牛界に揺るぎない地位を築いていたが、彼との対戦でデビューしようというレイの登場におののいて、雌雄を決すべき試合当日の明け方、祈るうち不吉な兆しをみて逃げ出してしまう。それを追う有閑婦人のカレン(オハラ)は、復縁を望む別れた夫を含めた仲間との旅行中だったが、彼を別荘に誘いかくまう。嫉妬した夫は、彼の行方をレイに洩らし、レイはカレンを訪ねるがサントスには会わずに去る。彼女への恋心が対決を放棄させたのかと疑われるが、事実はもっと込み入っていた。サントスが祈りの中で見た“死の予感”とは己のものではなくレイのことであった。実はレイこそ、サントスが20年前、メキシコに巡業して恋した娘との間にできたひとつぶ種であり、娘はレイを産んで亡くなったのだった。英雄は息子の身を案じて姿をくらましたのだが、息子自身に励まされ、二人で晴れの舞台の土を踏む……。この宿命的展開は古めかしいが、ベティカーは、長い溶暗・溶明を的確に使い、闘う男の哀感を表現している。サントスがカレンと別荘を後にして赴く牧場で、再起をかけた牛との対決をする場面が上出来。
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